在住外国人を知る基礎講座「在住外国人にかかわる基礎知識〜在留資格・入管の課題を中心として」 講師:丹羽雅雄さん(弁護士) 2003/5/20

 トッカビ子ども会では、在住外国人の相談窓口の開設をめざして「在住外国人を知る基礎講座」を開催しました。連続2回講座で、第1回は在住外国人の出入国管理、在留資格等の法的な地位にかかわって、弁護士の丹羽雅雄さんを講師に招いて学習しました。第2回は、実際に相談業務を長い間進めておられる(財)とよなか国際交流協会の具圭三さんに、相談活動を進める上で、大切な視点や課題について学びました。

 ここでは、第1回の内容を事務局でまとめたものを紹介します。

■日本の在住外国人に対する法制度

 外国人に関する法律は、出入国管理及び難民認定法(入管法)と外国人登録法の2つの法律で基本的になりたっています。

 入管法は公正な出入国の管理に資する、外登法は外国人の居住関係、身分関係を正確ならしめることを管理する、と外国人に関わる法律はいずれも管理法しかありません。つまり、外国人に対する差別を救済、規制する法律がないということが最大の日本の特色です。

 2000年3月に法務省入管局が第2次出入国管理基本計画(基本計画)を発表しました。その中に示されてあることのキーワードは2つです。一つは経済のグローバリゼーションの問題で、そのために高度な技術を持つ外国人、とりわけIT関連分野での労働者を受け入れていこうとなっています。二つ目は、人口減少化、少子高齢化時代にともなって、国内の高齢者の労働市場に対して、外国人労働者を積極的に受け入れようということです。法務省入管局としては、農業、水産業、ホテル業等に加えて、介護労働などの分野に積極的に外国人労働者の必要性を基本計画で示しているわけです。

■グローバル化とともに浮き出すナショナリズム

 グローバル化が進むと、かならずナショナリズムが出てきます。とりわけアメリカで起こった9・11のテロ以降いろんなことが起きています。

 つまりアメリカを中心に、民族排外主義的な兆候が出てきています。例えばそのアメリカでは、イスラム系、アラブ系の人たちが予防検束といって逮捕されたり、収容されたりしていきました。

 日本でもそうです。例えば、アフガニスタンの難民申請している人たちがいますが、その人たちもすぐに入管の施設に収容されました。少し前になりますが、富山ではコーランを破りすてる人がいたという事件がありました。

 北海道の小樽の浴場の問題では、入場者を日本人に限りました。そこで日本国籍のカナダ人とドイツ人がこれはけしからんといって、2人でおふろに入りにいくと、それも断られました。日本人であることを告げても、肌が白いからいけないと断られます。つまりこれは拒否理由が国籍云々ではないわけです。非常に得体のしれないものなんです。

 少し古いですが、'99年に浜松で日系ブラジル人が宝石店に入ろうとしたら、商店主に止められた上に、警察まで呼ばれたというとんでもない事件がおこりました。さすがに許せないということで裁判になりました。

 小樽の件も浜松の問題も、1995年に日本が人種差別撤廃条約に加入した後でした。それで両方の裁判は、直接適用ではないけれども、人種差別撤廃条約を援用しながら、民法709条の違法な行為の中に間接適用して裁判官が賠償命令をだしました。  また最近多い事象としては、警察庁とか警察署が防犯をよびかけるビラで、「中国人かなっと思ったら110番」「不審な外国人が家のまわりにたむろしていたらすぐに連絡を」というようなことを書いたものがまかれています。

 新聞報道でも外国人風という表現がつかわれています。特に今は中国の方をターゲットにしています。また、北朝鮮の拉致問題を契機に民族学校の子どもたちに対する暴力も起こっています。

 つまり、経済のグローバリズムの流れのなかで、積極的に外国人労働者を受け入れなければならないという一方で、草の根的な人種主義、外国人排外主義が非常に拡大しているということです。

 特に冷戦構造の崩壊以降は、民族浄化を含む、とりわけアメリカのグローバリズムと軍事派遣を中心に、日本の中にもある深い民族排外主義が顕在化していくという兆候がでてきています。

■民族的アイデンティティを基軸に

 外国人登録者数177万人のうち、一番多いのは韓国・朝鮮で、63万人います。その内旧植民地出身者が50万人。それ以外の13万人が一般永住とか日本人の配偶者とか、いろんな永住資格でいる人たちです。そして、「帰化」による日本国籍コリアンがこれまでの累計で26万人に及びます。

 日本政府は人種差別撤廃委員会(委員会)へ条約に関する報告書を出しています。それに対して委員会は、人種差別撤廃条約の趣旨は、民族的アイデンティティをどのように維持、保障、発展させるかということなので、日本国籍コリアンのコミュニティのデータがなぜないんですかと、問うわけです。つまり日本政府は、これまで日本国籍コリアンという視点で物事を考えてこなかったということです。この質問に対しては、次回日本政府が統計などを出さなければならないことになっています。要するに、アイデンティティの問題と考えると国籍は関係なく、そのことを把握しないと政策が出せないではないか、ということを委員会は言っているわけです。

 韓国・朝鮮人を中心とした特別永住者は、国籍法の改定の影響や、毎年1万人以上の「帰化」をする人たちの存在もふくめて、どんどん日本国籍化しています。そうなると、何を基軸に物事を考えていくかといえば、民族的なアイデンティティをどのように保持していくのかということなんです。自分たちの意志をきちんと行政に反映する。これは民族的な権利の柱なんです。

Unsplashzero takeが撮影した写真

■外国人の管理システム

 外国人が日本に入国する場合、その目的に応じた在留資格が当てはめられます。その要件は全部で27あります。その全ての資格の内容に、~“活動”と示されています。この“活動”が重要です。

 これがどういうことを引き起こすかというと、日本人と結婚した外国人女性の場合、在留資格は「日本人の配偶者等」となります。この資格の内容は、日本人の配偶者等としての“活動”となります。日本人どうしの場合、別居しても結婚している限り夫婦です。これは民法の身分法の適用です。しかし入管法はそれが適用されず、夫婦の実態がなければ在留資格が取り消しになります。つまり夫婦の“活動”の実態が必要になるわけです。

 留学生の在留資格で日本にきて、アルバイトばかりして学生の実態がない、となればこれも取り消しとなります。

 要するに民法の身分法と入管法の管理法との違いがあるわけです。

 1990年の入管法の改正で数字表記の在留資格を日本語表記にして細かく細分化しました。この法律の改正作業が'88年から'89年にかけて行われますが、この時はまだバブルの時代です。経済界は外国人労働者の受入ができるよう政府に働きかけます。しかし今開国するとあとあと大変になるということで、折衷案を日本政府はだしました。

 一つは日系人の受け入れです。しかし労働者としてではなく、たてまえは親族訪問。つまり“血”筋です。しかし、そういった受け入れが様々な問題を引き起こしています。日系ブラジル人の1世の人たちは、いずれ日本でお金を稼いだらブラジルに帰るんだ、という気持ちでいます。しかし、その間の子どもたちに対する母語教育の保障もなく、どんどん学校の授業がわからなくなった子どもたちが、不登校になるといった問題が発生しています。

■今こそ人権法システムの構築を

 私は問題を考える時に、いつも縦軸に歴史、横軸に人権として考えます。その観点で基本計画を縦軸でみると、ある意味で強制連行の二の舞ではないかと感覚的に思えるわけです。

 強制連行は、募集方式から始まって、官の斡旋にかわり、いずれは徴用方式というようなりました。要するに国家政策として労働力が必要だったんです。基本計画でいわれていることも、労働者受け入れの主要な対象者はアジアの人であって、かつ今の介護労働では女性が多いということでは、マイノリティという視点と、ジェンダーという視点が絶対でてくるわけです。ここのところを意識した人権政策がないと、構造的な搾取構造を生み出してしまう危険性があります。ですから、今こそ人権の視点をもった共に生きていくという具体的な人権法システムをどうつくっていくのかが問われていると思います。